研究内容

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研究プロジェクト

  • 生体膜を介した電荷移動 / 機能解明

    図1 イオンの膜透過
    図2 経口摂取した薬物が標的部位に到達するまでの流れ

    生物の体はたくさんの細胞からできています。物理化学的な観点で細胞を単純化すると、細胞膜で二つの水溶液を隔てたものといえるでしょう。そのほかにも生物の中には様々な生体膜が存在しており、膜は組成の異なる水溶液を隔てるものであるといえます。組成の異なる水溶液の間で生体膜は制御された物質輸送を行うことによりエネルギーや物質生産の場となっています。物質輸送の制御には生体膜上のチャネルタンパク質が重要な役割を果たしています。我々は膜を通りぬける分子やイオンの輸送を物理化学の見地から解き明かしています。このように生物の内部はたくさんの膜で隔てられた組織から成り立っています。そのため、例えば、口から摂取した薬剤が患部に到達するにはやはりたくさんの膜を通過する必要があります。このように生物の中での薬物の輸送の基礎は膜透過といえます。我々は薬物の輸送に関する解析モデルの構築と理論の整備を進めています。

    Keywords:脂質二分子膜、イオン移動、チャネル、膜結合型酵素、薬物輸送、生体濃縮、麻酔、定量的活性相関

    最近の研究成果

    ・Ion Transport across Bilayer Lipid Membranes in the Presence of Tetraphenylborate, Naruse, T., Yamada, Y., Sowa, K., Kitazumi, Y., Shirai, O., Anal. Sci., 38 683 (2022).

    ・Spontaneous Accumulation of Cesium Ions Based on the Membrane Potential Using a Selectively Permeable-Polyvinyl Chloride Capsule Containing Concentrated Potassium Ions and Zeolites
    Motoike, M., Kimura, K., Kitazumi, Y., Kano, K., Shirai, O.,J. Electroanal. Chem., 871 114300 (2020).

    ・Permselectivity of Gramicidin A Channels Based on Single-channel Recordings, Yamaguchi, T., Kitazumi, Y., Kano, K., and Shirai, O., Electroanalysis, 32, 1093-1099 (2020).

  • 神経伝達と細胞間コミュニケーション

    ダイアグラム

自動的に生成された説明
    図 神経伝達のモデル化

    生き物の体の中で細胞内また細胞同士は様々な形での情報伝達を行っています。神経伝達物質や電気信号がそれにあたります。例えば神経細胞は刺激を受けると膜電位が変化、それが軸索の末端まで広がって神経伝達物質の放出を誘導、次の神経細胞を興奮させる、といわれている。我々は膜電位変化の伝播や神経伝達物質から膜電位変化への情報変換といった生体内における情報伝達の仕組みを調査しています。その際に実細胞でなく、細胞膜と細胞内外の電解質溶液に着目し、膜のイオン透過に焦点を絞ったモデル細胞を用いることで物理化学的な解析を進めています。解析対象の現象に合わせてモデル細胞あるいは細胞集合体を構築し、細胞上および細胞間でのように電気信号が伝達するのか探っています。また、モデル細胞膜を用いることで、神経伝達物質による興奮のメカニズムを解き明かしています。

    Keywords:モデル細胞,神経伝導,細胞間コミュニケーション,同期現象,

    最近の研究成果

    ・Severe Problems of the Voltage-Clamp Method in Concurrent Monitoring of Membrane Potentials, Kaji, M., Yamada, Y., Kitazumi, Y., and Shirai, O., Electroanalysis, 34 1299 (2022).

    ・Electrical cell-to-cell communication using aggregates of model cells, I. Kasai, Y. Kitazumi, K. Kano, O. Shirai, Phys. Chem. Chem. Phys. 22 (2020) 21288-21296

  • 農業プラットフォームを支えるケミカルセンサ

    図 肥料センサを用いた自動施肥装置

    植物は水と二酸化炭素を光合成によって有機化合物に変換しながら成長している。植物の成長に欠かせない栄養素は肥料と呼ばれ、植物を健康に育成する上で施肥は欠かせない。肥料は水溶液中でイオンとなり植物の根から吸収される。一方で、過剰な施肥は植物の育成を妨げるのみならず環境汚染の原因となる。そのため、植物を育成する現場における肥料濃度の測定は重要である。特定のイオンだけが通過できる膜を水溶液と接触させると、特定のイオンの濃度に応じた膜電位が生じる。これが液膜型イオンセンサの基本原理である。我々は植物育成条件下での各種肥料成分濃度を測定するセンサを開発している。植物生育段階における肥料の要求量を明らかにし、施肥を最適化することで、より効率的な植物育成の実現を目指している。これら植物育成に必要な各種イオンを中心に様々なイオンの濃度を測定するセンサを研究しています。

    Keywords: ネルンスト式,肥料センサ,土壌センサ,pHセンサ,参照電極

    最近の研究成果

    ・Electrochemical consequtive detection of NO2– and NO3–, Kotaro Kitao, Keisei Sowa, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai, J. Electroanal. Chem.  939, 117429 (2023)

    ・Pollution Control of Nitrate-Selective Membrane by the Inner Solution and On-site Monitoring of Nitrate Concentration in Soil, Nakao, E., Kitazumi, Y., Kano, K., Shirai, O., Anal. Sci., 37 887 (2021)

  • 物質-エネルギー変換を実現する酵素機能電極

    図1:酵素電極反応の概要と応用展開

     地球規模の物質循環や生体内の呼吸代謝において,生体触媒である“酵素”は非常に重要な役割を担っています.酵素は進化の過程で獲得した高度な機能によって,常温常圧中性において最も効率良く機能することができます.そのため,持続可能な未来社会を構築するための切り札として,世界的に研究が盛んに進められています.
     我々は,酵素の中でも約30%を占める酸化還元酵素に着目し,生物電気化学的な研究を行っています.酸化還元酵素は,酸化反応や還元反応を触媒する際に,電子移動を伴います.電子移動は電流として捉えることができるため,生体材料である酸化還元酵素を電極材料と複合化することで,酵素機能電極を構築することができます.
     酵素機能電極では,酵素反応と電極反応が共役した「酵素電極反応」が進行します.本反応を利用することで,電子移動を制御した物質-エネルギー変換を実現でき,例えば,世界中で巨大な市場を形成している血糖値センサの基盤原理としても知られています.
     本反応は一見シンプルに見えますが,実は大変複雑です.構成要素である酸化還元酵素や電極材料,電子移動を促進するメディエータだけでなく,立体的な電極設計や電極界面制御をデザインする必要があります.特に,電極表面や電極近傍での反応機構に関しては,未解明な現象が多く存在しています.そこで,酵素電極反応を生物電気化学の観点から徹底的に基礎理解し,バイオミメティックス(生体模倣技術)へと繋げる取り組みをしています.

    図2:バイオミメティクスに向けた酵素電極反応

    Keywords:酵素電極反応,酸化還元酵素,電子移動,電極材料,多孔質材料,電極設計,メディエータ,電気二重層,酵素吸着シュミレーション,反応解析

    最近の研究成果

    ・Effects of N-linked glycans of bilirubin oxidase on direct electron transfer-type bioelectrocatalysis, Suzuki, Y., Itoh, A., Kataoka, K., Yamashita, S., Kano, K., Sowa, K., Kitazumi, Y., Shirai, O., Bioelectrochemistry, 146 108141.

    ・Inhibition of direct-electron-transfer-type bioelectrocatalysis of bilirubin oxidase by silver ions, Makizuka, T., Sowa, K., Shirai, O., Kitazumi, Y., Anal. Sci., 38 907.

  • 構造生物電気化学で解明する導電性酵素

    図1:導電性モデル酵素フルクトースデヒドロゲナーゼ

     酸化還元酵素は生体における呼吸や代謝に関わっており,電子移動の流れを高度に制御しています.そのため,触媒反応における電子移動経路は厳密に規定されており,一般的に,酵素と電子授受を行うためには低分子酸化還元物質であるメディエータが必須でした.
     しかしながら,一部の稀少な(世界で報告例は約30種,全体の0.01%)酵素において,固体材料である電極と直接的に電子授受ができることが発見されました.本酵素は学術的には直接電子移動(DET)型酵素と呼称されておりますが,導電性を持つという意味を込めて,“導電性酵素”とあえて表現します.
     導電性酵素を電極材料に修飾することで,その触媒機能を電極材料に容易に付与することができます.また,酵素と電極のみの最もシンプルな酵素機能電極を構築できるため,優れたエネルギー変換効率や高い設計自由度を実現でき,例えば,究極のバイオセンサである第三世代型バイオセンサを構築することができます.
     私たちは,10種類の導電性酵素に対して,研究を行ってきましたが,その中でもモデル酵素であるフルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)に関する研究を紹介します.FDHは平均の10 倍以上高い活性からモデル酵素として知られています.また,酵素工学的に手法によって多種多様な変異体を作製し,その生物電気化学的特性を明らかにしてきました.しかしながら,膜結合性酵素という特徴からX線結晶構造解析に長年成功しておらず,構造生物学的な考察が困難でした.しかしながら,近年,ノーベル賞技術であるクライオ電子顕微鏡観察技術を活用し,本酵素の立体構造を解明することに成功し,大きなブレイクスルーを生み出しました.
     現在,構造生物学と酵素工学,電気化学を融合した“構造生物電気化学”を活用し,テーラーメイドな導電性酵素を創出する野心的なプロジェクトを進めています.FDH以外にも立体構造の解明に成功した酵素群(アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)やアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH))を鋳型として利用し,in silicoとin vitroによる新しいアプローチで,戦略的な新規導電性酵素の創出を目指しています.

    図2:新規アプローチによる導電性酵素の創出

    Keywords: DET型酵素,導電性酵素,クライオ電子顕微鏡,インシリコ解析,機械学習

    最近の研究成果

    ・Multiple electron transfer pathways of tungsten-containing formate dehydrogenase in direct electron transfer-type bioelectrocatalysis, Yoshikawa, T., Makino, F., Miyata, T., Suzuki, Y., Tanaka, H., Namba, K., Kano, K., Sowa, K., Kitazumi, Y. and Shirai, O. ChemComm, 58 6478.

    ・Structural and Bioelectrochemical Elucidation of Direct Electron Transfer-type Membrane-bound Fructose Dehydrogenase, Suzuki, Y., Makino, F., Miyata, T., Tanaka, H., Namba, K., Kano, K., Sowa, K., Kitazumi, Y., Shirai, O., https://doi.org/10.26434/chemrxiv-2022-d7hl9

    ・Essential Insight of Direct Electron Transfer-Type Bioelectrocatalysis by Membrane-bound D-Fructose Dehydrogenase with Structural Bioelectrochemistry, Suzuki, Y., Makino, F., Miyata, T., Tanaka, H., Namba, K., Kano, K., Sowa, K., Kitazumi, Y., Shirai, O., https://doi.org/10.26434/chemrxiv-2023-8f5g4

  • 社会実装を目指したバイオミメティクス

    図1:導電性酵素を用いたCO2のバイオ資源化

    自然が作り出した高度な生体機能の模倣技術(バイオミメティクス)によって,幅広い分野への社会実装を目指しています.酸化還元酵素による触媒反応は電子移動を伴うため,電子移動を制御することで様々なアプリケーションに展開できます.
     例えば,電子を与える(電気エネルギーを与える)という観点で捉えると,バイオリアクタへの応用が可能となります.2050年のカーボンニュートラルに向けて,CO2の資源化が全世界的な目標として掲げられています.本目標に対して,酵素が持つ高効率な触媒機能を利用することで,CO2をギ酸へのバイオ変換するbio-CCU (Caron dioxide Capture and Utilization)が実現できます.

    図2:バイオエタノールを燃料とするカスケード型バイオアノード

     また,電気を取り出す(電気エネルギーを取り出す)という観点で捉えると,バイオ電池への応用が可能です.例えば,グルコースから電気エネルギーを取り出す場合,理論上,お茶碗1杯分の白米から単三アルカリ乾電池64本分のエネルギーを取り出すことができるため,魅力的な次世代型発電デバイスと言えます.さらに,水素やエタノールからも発電も可能であり,クリーン水素やバイオエタノールを燃料源として利用することもできます.
     さらに,電気を測る(電流を測定する)という観点で捉えると,バイオセンサへの応用が可能です.すでに,世界中の糖尿病患者のQOLの向上のために,巨大な血糖値センサ市場が形成されています.現在は,ウェアラブルデバイス向けのバイオセンサ開発も進められており,近未来に必要な要素技術として期待されています.
     他にも,光エネルギーを利用した人工光合成や,微生物を酵素の袋として利用する微生物燃料電池,電気ウナギの機能を利活用した塩分濃度差発電などの応用研究も進めています.

    図3 塩分濃度差発電のメカニズム

    Keywords: バイオセンサ,バイオ電池,CO2のバイオ資源化,人工光合成,微生物燃料電池,塩分濃度差発電

    最近の研究成果

    ・Multiple electron transfer pathways of tungsten-containing formate dehydrogenase in direct electron transfer-type bioelectrocatalysis, Yoshikawa, T., Makino, F., Miyata, T., Suzuki, Y., Tanaka, H., Namba, K., Kano, K., Sowa, K., Kitazumi, Y. and Shirai, O. ChemComm, 58, 6478. (2022)

    ・Experimental and Theoretical Insights into Bienzymatic Cascade for Mediatorless Bioelectrochemical Ethanol Oxidation with Alcohol and Aldehyde Dehydrogenases, Adachi, T., Miyata, T., Makino, F., Tanaka, H., Namba, K., Kano, K., Sowa, K., Kitazumi, Y., Shirai, O. ACS Catalysis, 13, 7955 (2023)

    ・Improvement in the Power Output of a Reverse Electrodialysis System by the Addition of Poly(sodium 4-styrenesulfonate), Y. Yamada, K. Sowa, Y. Kitazumo, O. Shirai., Electrochemistry, 89, 467 (2021)

研究紹介動画

  • 生体機能化学研究室 紹介動画

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  • L-INSIGHTフェローの宋和助教の研究紹介動画