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構造生物電気化学で解明する導電性酵素

図1:導電性モデル酵素フルクトースデヒドロゲナーゼ

 酸化還元酵素は生体における呼吸や代謝に関わっており,電子移動の流れを高度に制御しています.そのため,触媒反応における電子移動経路は厳密に規定されており,一般的に,酵素と電子授受を行うためには低分子酸化還元物質であるメディエータが必須でした.
 しかしながら,一部の稀少な(世界で報告例は約30種,全体の0.01%)酵素において,固体材料である電極と直接的に電子授受ができることが発見されました.本酵素は学術的には直接電子移動(DET)型酵素と呼称されておりますが,導電性を持つという意味を込めて,“導電性酵素”とあえて表現します.
 導電性酵素を電極材料に修飾することで,その触媒機能を電極材料に容易に付与することができます.また,酵素と電極のみの最もシンプルな酵素機能電極を構築できるため,優れたエネルギー変換効率や高い設計自由度を実現でき,例えば,究極のバイオセンサである第三世代型バイオセンサを構築することができます.
 私たちは,10種類の導電性酵素に対して,研究を行ってきましたが,その中でもモデル酵素であるフルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)に関する研究を紹介します.FDHは平均の10 倍以上高い活性からモデル酵素として知られています.また,酵素工学的に手法によって多種多様な変異体を作製し,その生物電気化学的特性を明らかにしてきました.しかしながら,膜結合性酵素という特徴からX線結晶構造解析に長年成功しておらず,構造生物学的な考察が困難でした.しかしながら,近年,ノーベル賞技術であるクライオ電子顕微鏡観察技術を活用し,本酵素の立体構造を解明することに成功し,大きなブレイクスルーを生み出しました.
 現在,構造生物学と酵素工学,電気化学を融合した“構造生物電気化学”を活用し,テーラーメイドな導電性酵素を創出する野心的なプロジェクトを進めています.FDH以外にも立体構造の解明に成功した酵素群(アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)やアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH))を鋳型として利用し,in silicoとin vitroによる新しいアプローチで,戦略的な新規導電性酵素の創出を目指しています.

図2:新規アプローチによる導電性酵素の創出

Keywords: DET型酵素,導電性酵素,クライオ電子顕微鏡,インシリコ解析,機械学習

最近の研究成果

Multiple electron transfer pathways of tungsten-containing formate dehydrogenase in direct electron transfer-type bioelectrocatalysis
T. Yoshikawa, F. Makino, T. Miyata, Y. Suzuki, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi and O. Shirai
ChemComm, 58 6478
DOI: 10.1039/D2CC01541B

Structural and Bioelectrochemical Elucidation of Direct Electron Transfer-type Membrane-bound Fructose Dehydrogenase
Y. Suzuki, F. Makino, T. Miyata, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi and O. Shirai
ChemRxiv, 14 March (2022)
DOI:10.26434/chemrxiv-2022-d7hl9

Essential Insight of Direct Electron Transfer-Type Bioelectrocatalysis by Membrane-bound D-Fructose Dehydrogenase with Structural Bioelectrochemistry
Y. Suzuki, F. Makino, T. Miyata, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi and O. Shirai
ChemRxiv, 25 July (2023)
DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-8f5g4